一級建築士事務所 アーキラボ・ティアンドエム
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札幌版次世代住宅基準
札幌市が検討を重ねてきた「札幌版次世代住宅基準」の運用が開始されます。これは札幌独自の高断熱・高気密住宅の基準で、日本国内で最高水準の性能を目指してつくられたものです。

国が平成11年に定めた省エネルギー基準の断熱性能は、寒冷地の札幌では確かに少し物足りない感じだったのですが、この札幌市独自の基準、これは・・・ちょっとすごい・・・。

等級は熱損失係数(Q値=断熱性能)と相当隙間面積(C値=気密性能)で評価されるのですが、国が定めていた次世代省エネルギー基準(北方型住宅レベル)を5段階の最低レベルに設定(少し前まではこのレベルが国内最高水準!)、北方型住宅ECOレベル(Q値1.3以下)がベーシックレベル、それを上回るキューワン住宅(Q値1.0を実現して暖房エネルギーをさらに半減させようとした超省エネ高断熱住宅)でも5段階の真ん中、スタンダードレベル。

トップランナーレベルになると、ほぼ無暖房で過ごせるのではないかとされるスペックになります。

具体的な補助金額等は来月にも公表されるようです。

等級基準は札幌市のホームページに分かりやすく書かれています。
http://www.city.sapporo.jp/toshi/kenchiku/jisedaikijyun.html

ちなみにわたしたちのアトリエATMNはキューワン住宅を実現していてQ値1.0、C値0.3。スタンダード・・・。厳しい。しかも、この表示制度は基本的にこれから建てられる住宅に採用されるそうなので、性能表示ラベルをいただくことはできないらしい。銀色のでもいいから、ほしいなぁ。

この基準の中でわたしたちが注目したことがもう一つあったのですが、それはまた明日書くことにします。




札幌版次世代住宅基準 のつづき
来年度(といってもあと1ヵ月後)から運用が開始される札幌版次世代住宅基準、この中でQ値やC値以外にわたしたちが注目したこと。

それはスペックを上げたときに増える施主の負担額も提示されていたことでした。

新築一戸建ての標準モデル延床面積125.9平方メートル(38坪)、3人家族の世帯で、ミニマムレベル(北方型住宅レベル、これは北海道の住宅だと割りと到達できるレベルだと思います)を0としたときに、ベーシックレベルに性能を上げると建設費は100万円程度の増加、投資回収年数は50年、スタンダードレベルにすると335万円増、投資回収年数は77年など、とても分かりやすく示されています。

わたしたちはBIS(断熱施工技術者)資格を保有していることもあり、補助金についての問い合わせを受けることが多々あります。建設費の一部に補助を受けられると、施主の負担が軽減され住宅ローンの額も減らすことができると考えられますから、当然受けられる補助は受けたいですよね。実際にわたしたちも木のいえ整備促進事業の補助を受けていますので、すごくよくわかります。

でも、これらの補助を受けるためには、その要件に見合った施工を施すための材料費、施工費が発生しますので、補助金額を上回る施主負担が発生するわけです。

例えば今回の札幌版次世代住宅基準では、50万円から250万円くらいの補助が受けられるのではないかと言われていますが、250万円の補助を受けられると予想されるトップランナー基準にするためには720万円ほどの負担増と試算されていますので470万円は施主の負担が増えることになります。

(3/1追記。補助金額はトップランナー基準で200万円、それ以下のレベルで50万円とのことです)

予算は限られています。その中で470万円の負担増・・・。ラクなことではありません。わたしたちのアトリエATMNだって、もっともっと予算があれば、もっともっと壁(断熱層)を厚くしたかった・・・、もっともっと窓にもお金を掛けたかった・・・。でも、このくらいのスペック(Q値1.0、C値0.3)がわたしたちの総予算における断熱・気密化費用としてはギリギリのバランスでした。

「快適」な状況って、デザインの満足度、高断熱・高気密化はもちろん、住まいに掛ける費用が自分の納得いくバランスで支出されたかってことも大いに関係していると思います。「断熱を削って暖房費すごいけど、広いから満足」と思う人もいるかもしれないし、「ちょっと狭くなったけど、暖かいしこれで十分」と思う人もいるでしょう。それぞれの希望の優先順位を見つけながら、その人にとってバランスのいい次世代住宅の設計提案をしていきたいなぁと思っています。

あ、この話、明日も続きます。久しぶりに真剣なことを書いているので、書きたいことがいっぱい。ご容赦ください。



 
札幌版次世代住宅基準 のつづき(2)
昨日のブログでチラッと触れた「投資回収年数」について。

断熱・気密性能を上げると、工事費は増える分、住んでからのランニングコストは抑えられるので、札幌版次世代住宅基準では増えた分の建設費を何年で回収できるかという試算も出されています。

灯油価格に換算しているのでなんとも微妙ですが、例えば1リットル75円で計算すると、昨日書いた通りベーシックレベルで50年、スタンダードレベルで77年。灯油価格が1リットル150円になったと仮定すると回収年数は半減、それぞれ25年、38年で回収するという計算です。電気やガス使用を想定するとまた違った結果になるとは思いますが、いずれにしても建築後、あっという間に回収できるとは言えません。

先日、住宅を建てるために土地を探している友人から「建物は30年経ったら価値がなくなるけど、土地の価値はゼロにはならないから、売ることも考えてとにかく建物より土地を重視したい」的なことを言われ、建物を提案しているわたしたちは軽く打ちのめされました。

言ってることはすごく分かるんだけど、「じゃあ30年後に売るためにそれまでの30年、寒くて暗い家に住んでもいいの!?」と尋ねましたが、現状、築30年の建物は資産価値がゼロ、建物があっても土地の価格(またはそれ以下)で売買されていますから、そう考えられても仕方がないのかもしれません。

長期優良住宅や今回の札幌版次世代住宅基準では、住宅履歴の保存や評価書を交付することで資産価値の向上が図られています。トップランナーレベルになると回収年数は短く想定して46年、灯油価格が現状のままだとしたら92年ですから1代で回収できるわけもなく、2代3代と受け継がれる100年(200年)住宅として資産価値のあるものという考えが根付かないと普及も進まないでしょう。

補助もそうですが表示制度についても周知されて、設備機器のように簡単に取り替えることができない躯体・壁の中身である断熱・気密性能にお金を掛けることの価値を正当に評価してもらえるようになることを、すごくすごく期待しています。


札幌版次世代住宅基準 のつづき(3)
前回のブログで「投資回収年数」のことを書きました。断熱・気密に掛けたお金は何年で回収できるか。あっという間には回収できないということ。

それじゃあ意味ないから断熱・気密にお金かけなくていいや。

と思ってしまった方もいるでしょうか??

それは大間違いでして。

ヒートショックという言葉を聞いたことはありますか? 急激な温度変化が身体に及ぼす影響のことで、これで亡くなる方が年間に1万人以上、交通事故で亡くなる方の2倍以上いるそうです。冬の入浴後、寒い脱衣室や廊下に出るときなどに起こりやすいと言われています。しっかり断熱された住宅は室内における温度差がありませんから、住宅内でのヒートショックの予防につながります。

寒冷地ならではの風景に見られる「つらら」。太陽の熱が屋根の雪を解かしてできる場合もありますが、室内で暖房された空気が十分に断熱されていない屋根から逃げ、それによって屋根の雪が解けて作られている場合も多いです。室内を暖めるための暖房で雪まで解かす必要もないわけでして、雪を解かしている熱がもったいないわけでして、その熱のために支払う暖房代も安くはないわけでして・・・。

また、オール電化住宅に住んでいながら「寒いから」ということでポータブルの石油ストーブを併用している人や、暖房していても夕方は電気カーペットから離れられないと言う人の声も耳にします。せっかく新しく建てた住まいなのに基本的な快適性が得られないのは残念です。

札幌版次世代住宅基準で示された投資回収年数はあくまで「現状のままの灯油価格だったら・・・」「灯油価格が今の2倍になったら・・・」という「実際はどうなるか分からないけど例えてみると・・・」という数値上の目安でしかなく、「今より心地よく快適に過ごすための支出」という観点は含まれていません。

わたしたちのアトリエATMNが竣工してもう少しで3ヵ月。この3ヵ月で実感できたことを次に書きたいと思います。